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【読書】2020年2月に読んだ本まとめ

こんにちは!
今回は、先月一ヶ月間に読んだ本について記事を書きたいと思います。この一ヶ月で読んだ本まとめは、本を読むだけで満足したり、冊数を読むことに傾斜しないためにも定期的にやっている試みです。


読んだ本まとめ

一ヶ月に読んだ本は以下の通り。 f:id:KinjiKamizaki:20200301002657p:plain f:id:KinjiKamizaki:20200301002720p:plain f:id:KinjiKamizaki:20200301002737p:plain f:id:KinjiKamizaki:20200301002757p:plain f:id:KinjiKamizaki:20200301002815p:plain

総評

一ヶ月で読んだ本は43冊。その内訳は以下の通り。

- 小説・エッセイ → 5冊:国内4冊、海外(翻訳)1冊
- その他→ 38冊

2月の読書冊数は43冊。1月が41冊だったので冊数としては久しぶりの増加。2月は出張の移動中に読む時間が多かったのと、後半はコロナウイルスの影響でなかなか外出できなかったこともあり、それが増加に寄与したのかなという気はします。別に無理にたくさん読んだという実感はないので、これはこれで特に問題視はしていません。

読んだ本の内容としても、軽めの新書・エッセイから重めの哲学書やノンフィクションなど割といい感じのバランスで読めました。小説が少ないのは相変わらずではありますが、「コインロッカー・ベイビーズ」が実質二冊分くらいの分量だと考えるとそこまで気にしなくて良いでしょう。全般的にみて、割と充実した読書生活が過ごせたのではないかと思います。

今月のマイベスト小説&ビジネス書

毎月恒例となっていますが、その月で最も印象に残った小説・ビジネス書をご紹介します。

小説部門

2月に最も印象に残ったのは、今話題のSF短編集「息吹」です。村上龍の「コインロッカー・ベイビーズ」も非常に印象深く、実は月の途中まではそれをベスト本にしようと思っていましたが、2月後半に読んでいた「息吹」に持っていかれてしまった形です。

この短編集の作者はテッド・チャンという中国にルーツを持つアメリカ人作家。寡作で知られている作家で、15年以上前に出版された「あなたの人生の物語」以来の書籍です。知っている方は知っている通り、この「あなたの人生の物語」はとても人気の高い作品で、「メッセージ(原題はArrival)」というタイトルで映画化もしています。僕自身も「あなたの人生の物語」で大きく衝撃を受けたこともあり、今回新たに出版された「息吹」もとても楽しみにしていました。

蓋を開けてみれば、期待を凌ぐほどの作品ばかりで、SF短編集としてのクオリティは非常に高かったと思います。短編集というと、どんなに好きな作家のものでも、合わない作品やそこまでピンとこない作品が多少は含まれていることが多いですが、この本に収録されている作品は本当にハズレがない。これは「あなたの人生の物語」とも共通していますが、これだけのクオリティを継続して描き続けられるのは見事の一言です。

全体的に、テクノロジーや科学的考察をもとに人間の「物語性」や「自由意志」をテーマとして語った作品が多かった印象です。これらは、僕のお気に入りの作家である伊藤計劃やグレッグ・イーガンなんかにも共通するテーマでもあり、これが僕がSFに求めているものなのだと改めて感じました。。「SFは哲学である」とは僕が良く言っている言葉ではありますが、まさにそれを描いている一冊だったと言えます。

科学の発達に伴い、人間の限界というものが見えて来ているのが現代社会です。人間は神が特別に創造したものでもなんでもなく、遺伝子レベルでは猿とほとんど変わりがないこと。地球は世界の中心ではなく、相対性理論によれば「絶対座標系」などというものは存在しないこと。人間の脳が持つ記憶というシステムは、必ずしも客観的事実に基づいているわけでなく、本人すら気付かない間に捏造が行われることが多々あること。などなど、人間の特別性や神秘性、完全性についての幻想は次々に打ち砕かれているのが現実です。

そういったものから目をそむけ、幻想の世界に浸ることも否定は出来ませんし、それはそれで一つのあり方なのだとも思います。それによって本人がしあわせに生きることができ、他人に対して危害を加えるようなことがなければ他人がどうこういう話ではないでしょう。しかし、僕がこの本から感じるのは、そんな身も蓋もない現実の中で「いかにして人間らしく生きるのか?」という現代人に突きつけられた絶望的な問いと、その問いに真っ向から答えようとする力強い意志です。

人間味を感じる暖かい文体でありながら、単純なアンチテクノロジー(反科学主義)や人間中心的な神秘主義、安易なノスタルジーやロマン主義に逃げることなく、その統合を図る試み。正直言ってこのレベルのSF小説はしばらく読めないんじゃないかなと思わせるだけの面白さを感じた一冊でした。今後その予想を裏切ってくれるような小説が読めることを期待しているようなしていないような、なかなか複雑な気分です(笑)

ビジネス書部門

今月のマイベストビジネス書は四方田犬彦さんという文化論者の方の「かわいい論」です。最近はビジネス書がここに選ばれることも少ないので、非小説部門にしたほうが良いのではないかという気がしないでもないです(笑)

その内容としては、いまや「Kawaii」として世界共通語になった「かわいい」という概念について大真面目に考察していく本です。日常的になんてことなく使うこの「かわいい」という言葉ですが、掘り下げていくとめちゃめちゃ奥が深く、非常に読み応えがあります。まさに、「かわいい」を哲学するって感じです(笑)

「かわいい」の起源としての「清少納言」から始まり、各国の言葉との概念的な差異(英語の「Cute」や「pretty」、中国語の「可愛」など)、小さいものや懐かしいものへの愛着としての「かわいい」、そしてアニメ(セーラームーンや「萌文化」)や女性誌に見る「かわいい」の扱いなど、その考察は極めて多面的です。そのような切り口を通じて「かわいい」についてのぼんやりとした輪郭は見えてくるものの、その全容はこの本の中で語られることはありません。しかし、このようなひどく曖昧模糊とした概念から何らかの秩序を見出していく過程自体が非常に刺激的でした。

個人的に最も印象に残ったのは以下の文章です。

われわれの消費社会を形成しているのは、ノスタルジア、スーヴニール、ミニチュアールという三位一体である。「かわいい」とは、こうした三点を連結させ、その地政学に入りきれない美学的雑音を排除するために、社会が戦略的に用いることになる美学であると要約することは、おそらく間違ってはいないだろう。

ぱっと見ただけでは何を言っているのかわからないと思います(笑)。あまりに一般的な「かわいい」という概念について、こんな大袈裟な言葉を使って語るというそのちぐはぐさがまた知的好奇心を掻き立てます。本当に奥が深い(笑)

僕は、こういった身近にある概念を深く突き詰めて考えてみるという試みとは、読者の世の中の見方を変えてくれる本だと思っていて、それゆえ非常に興味深く読むことができたのだと思います。ともすれば、退屈で終わりのないものと捉えてしまいがちな日常に少しだけ刺激をあたえ、自分なりに考えるきっかけになるという意味で今月一番印象に残った本に選びました。本に書かれていることももちろん重要ですが、それによって読者側がどう変わるかもまた、読書の大切な要素の一つだと改めて思います。

生態系という概念

上の画像を見ていただければわかるとおり、今月の読書傾向としてはそこまで一貫したものはなかったと思います。それは一つの分野に偏り過ぎないことを意識しているせいでもあるので、それはそれで問題ないかなという気はしています。

一方で、ここ最近読んだ本から得られたものを振り返ってみると、そこに共通する概念として「生態系」が挙げられるのではないかと思いました。具体的に「生態系」という言葉が本の中で使われていたかどうかは別として、先月読んだ本の中で、僕の「生態系」のイメージに影響を与えた本は、養老孟司さんの「唯脳論」「超バカの壁」、ウィトゲンシュタインの「青色本」、川喜田二郎氏の「発想法」「続・発想法」、唐澤太輔さんの「南方熊楠 日本人の可能性の極限」、それにダーウィンの「種の起源」あたりですね。

僕がこの言葉が持っているイメージを言語化するのはなかなか難しいのですが、少なくとも、一般的に使われているような動物や植物の食物連鎖的なものに限った話ではありません。あえて言うならば、「多様性を持つ様々な要素が複雑に絡み合い、かつ動的にお互いに影響を及ぼしながら時間的に変動しつづけるシステム」とでも言いましょうか。その中から何らかの秩序や法則性を見出し、わかりやすいように記述するのが分類であり、科学であり、抽象化であると思います。養老さんの提唱している概念で言うならば、これがまさに脳の特性だと言っていいでしょう。

もちろんこれ自体は非常に重要なことではありますし、それが生み出した科学的成果を過小評価するつもりは全くありません。こうしてブログで自分の考えを発信できるのもまたその成果の一つであると言えるでしょう。いつも言っている通り、GoogleやiPhoneが減らした貧困や悲劇の量は無視されるべきではないほど大きなものだと思います。

しかし、そのあり方の限界というものを意識することもまた重要だなと最近思います。それはある意味で技術的な制約に過ぎないのかも知れませんが、それを機械の上でシュミレートするには人間の自然に対する理解も、それの記述の仕方もまだまだ全く足りていないと言わざるを得ません。そもそも、その複雑系をエレガントに説明しうる単一の法則があるかどうかの保証もありません(個人的にはあるんじゃないかと思っていますが)。

いずれにしても、人間が全てを理解することは著しく困難であり、それを過信しすぎるのもまた危ういなというのが僕の考えです。このあたりの考えは、先々月に読んだタレブという思想家の「反脆弱性」という本の概念に通じる部分でもあります。その全てを理解しようという試み自体は無駄だとは思いませんが、人間がその全てを制御・管理できると信じることは危うさを伴うと感じてしまいます。

もちろん、そんなことは当たり前だと言われればその通りなのですが、本当の意味でそれが多少なりとも腑に落ちたのはつい最近のことです(このニュアンスを言語で説明することは困難を極めます)。複雑系を複雑系として理解すること。脳はその機能上、往々にして複雑系を単純化したがるものですが、その誘惑に抗いながら物事を考えていきたいなぁと思った次第です。それを象徴するキーワードが「生態系」です。当たり前ですが、これはカルト的な自然信仰・崇拝でもなければ、アンチテクノロジーでもありません。せいぜい、物事の複雑性についてもう少し意識的でありたいという程度の話です。

特に、先日読んだ本を見る限り、南方熊楠氏はこのあたりに非常に敏感だったように思います。そういうこともあり、氏についてはもう少し深く学んでいきたいなと思います。もちろん、氏が晩年に入れ込んだというオカルティズムに傾斜するつもりは今のところ全くありませんけどね(笑)

まとめ

今回は2月に読んだ本のことについてまとめてました。なんだかんだ、こうして振り返る機会を設けることで考えさせられることも多いので、これからも毎月継続していくつもりです。

それでは、また!