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【読書コラム】天才感染症 - 我々は本当に頭が良くなりたいのだろうか?

こんにちは!

今回も読書コラムを書いていきたいと思います。テーマ本はアメリカのSF小説「天才感染症」。作者はデイヴィット・ウォルトンという作家で、アメリカのウォール・ストリートジャーナル「ベスト・ブック・オブ 2017」のSF部門の年間1位に輝いた小説らしいです。

 

テクノロジーや最新技術を駆使した良質なエンタメ小説であると同時に、その根底には人間の知性や意思決定に対する哲学的な問いがあり、とても考えさせられる小説でした。そう言ったこともあり、今回この本でコラムを書くことを決めました!

 

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おことわり

本文に入る前に、何点かおことわりしておきたい点がありますので、ご承知の上お読みいただければと思います。

 

1. 読書コラムという形式

まずは本記事のスタンスについてです。本記事では、私がテーマ本を読んだことをきっかけに感じたことや考えたことを書いていくものとなっており、その意味で「読書コラム」という名称を使っています。

 

書評を意図したものではないので、本の中から筆者の主張を汲み取ったり、書かれた時代背景や文学的な考察をもとに読み解こうとするものではないので、そういうものを求めている方には適していないと思います。あくまでも「現在の私が」どう考えたかについての文章です。人によっては拡大解釈しすぎではないかとも思うかも知れませんが、その辺りは意見の違いということでご勘弁いただきたいところです。

 

2. 記事の焦点

どうしても文章量の都合とわかりやすさの観点から、テーマ本に描かれている色々な要素のうち、かなり絞った内容についての記事となっています。

 

本当は色々と書きたいのですが、どうしても文章としてのまとまりを考えるとそぎ落とさざるを得ない部分がでてしまうのが実情です。

 

3. ネタバレ

今回はそこまでネタバレ要素は多くありません。物語としての大まかな流れについては言及しますが、一人一人の登場人物についての描写や結末についての踏み込んだ議論はありませんので、未読の方でもそれほど抵抗なく読めるのではないかと思います。

 

前置きが長くなってしまいましたが、ここから本文に入っていきたいと思います。

 

総括

今回の記事のサブタイトルは「我々は本当に頭が良くなりたいのだろうか?」という問いです。普通であれば「それはそうだろう」と思われるかもしれませんが、この本を読んだ時に、その問いについて考させられてしまいました。

 

はっきり言うと、今回はいつものような結論らしい結論は出せず、せいぜい思考展開の羅列と問題提起止まりです。そういう意味で、かなり歯切れの悪い文章になってしまっているとは思いますが、何か考えるキッカケにはなるかもしれません

 

それでは、 詳しく見ていきましょう。

 

物語の内容と論点

この小説で描かれる内容としては、感染すると知能が飛躍的に向上するという新種の細菌が発見され、中南米を舞台に細菌と人間との抗争が描かれるという非常にエキサイティングなものとなっています。エンターテインメントとしても非常に楽しめることは間違いないのですが、それだけでなく人間の知性や知能に対して大きな問いを投げ掛けるという哲学的な小説でもあります。

 

この小説に関していうと、色々と思考を巡らせ甲斐のあるテーマが含まれているのですが、今回の記事では特に人間の知性について焦点を当てていきたいと思います。

 

物語の中で、知性を向上させる細菌がサプリメントとして闇取引される、という展開があります。頭が良くなりたい人(例えばテスト前の学生とか)がこのサプリメントを求めた結果、感染者が拡大していくというなかなかグロテスクな光景です。

 

知っておられる方もいるかもしれませんが、実はこれと似たようなことは現実でも起こっています。もちろん頭が良くなる細菌というものがあるわけではありませんが、通称「スマートドラッグ」と呼ばれる医薬品やサプリメントは現実世界でも取引されています(調べてみたら、Wikipediaの項目としてもありました。詳細はそちらをご覧ください)。

 

スマートドラッグ - Wikipedia

 

今回はこのスマートドラッグを思考の材料として、人間の知性について考えていきます。このスマートドラッグという存在、しっかりと考えてみるとわかりますが、シンプルなようで非常に奥が深いです。

 

一応書いておきますが、本記事はこのようなサプリメントの摂取を推奨(または非推奨)することを目的としてものではありません。僕自身の立場は後ほど書いていきますが、サプリメントの摂取は自己責任にてお願い致します。そもそも、現段階でのスマートドラッグに関しては、効果や副作用がよくわかっていないというのが現実な気がしないでもないです(そこまで詳細には調査していないので、かなり適当です)

 

スマートドラッグ

早速ですが、これを読んでいるみなさんは、スマートドラッグという存在を知ってどのような感情を抱いたでしょうか?もちろん副作用がどうであるかや、安全性について確認しないとなんとも言えないという方も多いと思います。しかし、多くの人にとっては、たとえ副作用がなく、完璧に安全なものであったとしても、薬を使って脳機能を向上させるということに対してなんとなくネガティブな印象を覚えるのではないかと思います。

 

僕自身としても、スマートドラッグの類を(知性を高めるという理由では *1)摂取したことはないですし、今後も飲むことはないのではないかなとは思います。それはなぜかと問われると、正直言ってそこまで論理的な回答があるわけではなく、もっぱら感情的な理由です。

 

「なんとなく嫌な感じがする」「そこまでして頭が良くなりたいのか?」「なんだか自分が自分で無くなるような感じがする」といったようなところでしょうか?逆に言えば、非常にはっきりしないこの感情以外にスマートドラッグを否定する要素がないとも言えるわけで、だからこそ今回はあまりはっきりとした結論が出せなかったわけでもあります。

 

余談ですが、この辺りの議論はイギリスのディストピア小説「すばらしい新世界」で出てくる「ソーマ」という薬物に似た構図だと思っています。これについてもそのうちコラムを書きたいとは思っていますが、この「ソーマ」をざっくり説明すると副作用も依存性もない麻薬です。飲むだけで快楽が得られる上に副作用がないという非常に興味深い思考実験で、我々の感覚だとかなり嫌な感じがしますが、現在の麻薬を否定する要素が健康被害でしかないのなら、この「ソーマ」を否定する根拠はきわめて薄弱です。そう考えると、得られるものが「知性」か「幸福」かという違いはあるものの、その構図は非常に近いものがあるように思えます。

 

反知性主義との狭間

スマートドラッグには「感覚的に」あまり賛成できないというのが、僕自身の立場なわけですが、そうなってくると一つ問題が生じます。それは知性主義との調和の問題です。僕は真理への探求は常に必要だと思っていますし、知性を高めるために学び続けることの重要性はいつも主張しています。また、反知性主義には断固として反対の立場を表明しています。それは僕の中での大きなテーマの一つであり、だからこそ、このブログでもそのような主張の記事が多いわけです。

 

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実際問題として、僕は自分を高めるために、本を読んだり、いろいろなことを考えたり、考えたことをこのブログに書いたり、色んな方と交流したり、仕事も含めて色々と行動したりしているわけです。

 

そう考えた時に、先のスマートドラッグの議論との不調和が発生します。すなわち、自分を高めるため、知性を育むために行動をすることの重要性を説きながら、同じ目的を持つスマートドラッグについては否定的である、という矛盾です。これはなかなかの衝撃です。人間は不合理な存在で、必ずしも理性的な判断ができる存在ではないということは理解していたものの、この矛盾に気付いた時、自分には一貫性なんてあるようで全然ないという事実を突きつけられたような気持ちになりました。

 

ドラッグを飲み込むか、知性に背をむけるのか?

矛盾が出てきたら、そのどちらかを棄却するか、それを超克する「たった一つの冴えたやり方」を生み出すか?が必要になるわけですが、残念ながら今回はそのどちらもできませんでした。

 

現時点ではドラッグを飲む覚悟を持つか、それとも知性主義に背を向けて遠回りの道を選ぶのか、すぐにその決断を下すことは難しいです。あえて言うならドラッグを飲み込む側にやや傾いているというくらいです。

 

今回の議論はあくまでも思考実験でしかないので、必ずしもポジションを取る必要はないとは思いますが、この状況がいつまで続くかはわからないと言うことは頭に入れておくべきでしょう。技術開発の結果、ドラッグを飲む人と飲まない人の間で超えられないほどの知性の格差が生じた時、その決断を迫られる可能性は高いと思います。もちろん、それだけのイノベーションが実際に起こるかどうかはわかりませんが、一考の余地は十分にあるように思います。

 

一方で、このような議論は世代交代によって解決するような話なのかもしれません。すでに書いた通り、スマートドラッグに対する僕のポジションはあくまでも根拠薄弱の感情論でしかありません。そう考えた時、将来的にスマートドラッグの開発が進み、身近な存在になってくると、その世代においては特に抵抗なく受け入れられるような気もします。

 

思い出すのは、ガラケーからスマホへの移行や、ラインの普及のプロセスです。当初は特に中高年にあまり受け入れられていなかったこれらのサービスが、抵抗のない若年層を皮切りに流行し、最終的には国民全体に普及することとなりました。このようなパラダイムシフトのプロセスを考えると、スマートドラッグに関しても同じような普及の仕方をするのかもしれないとも思います。

 

Let’s 思考実験

いずれにしても、スマートドラッグについては色々と思考を巡らせ甲斐のある、面白いアイテムだと思います。これまで直接触れることのできなかった人間の知性に干渉するものであり、思考実験の種はいくらでも作れます。例えば

 

・受験前に学生がスマートドラッグを飲むことは不正といえるか?

・スマートドラッグを使って人類を豊かにする技術を発明することは正義といえるか?

・お金持ちの子供だけが高価なドラッグを享受できることで、親の収入がそのまま子供の知性に直結するのは教育上正しいのか?

・逆に、皆に等しく給食でドラッグを食べさせれば解決するのか?(なかなかディストピア感のある光景ですね)

こんな感じですね。これが、スマートドラッグは奥が深いと言った意味です。

 

これらの問いはすぐに結論が出るものでもありませんし、明確な「正しい」正解があるようなものでもありません。しかし、自分の価値観や考え方をはっきりさせる意味でも、こういう問題について一度考える価値はあるように思います。

 

*1 捕捉

先の文章の中で、「知性を高めるという理由では」スマートドラッグの類を飲んだことはないと書きました。その意味は、今回のためにwikipediaで調べていたら、全然違う理由で日常的に飲んでいたサプリメントが、脳に良い影響を与える可能性があることを知ったということです。それは、上記のwikipediaの記事でブレインフーズという分類に入っているOmega-3 oilです。

 

Omega-3というと、だいぶ仰々しい感じがありますが、要するに魚に含まれるDHAなどの油です。そのままFish oilという名前のサプリで売られていることも多く、安い割に体にいいという理由で筋トレをやっている人の中ではかなり一般的なサプリとなっています。確かにどこぞの海洋教授も「魚を食べると頭が良くなる♪」と歌っていたので、脳にも良い影響があるのかもしれません(笑)。全く実感はないですけどね!

 

まとめ

今回はSF小説の「天才感染症」を読んで考えたことを書いてみました。そこまで小説の内容に準じた議論というわけではないですが、この小説にインスパイアされて人間の知性について考えさせられたという意味では、読書コラムという形でそう間違いではないのかなと思います。

 

正直、この小説については、他にも考えさせられる内容が色々あるのですが、今回は文章の分量も考え、スマートドラッグという部分に絞っての議論としました。その上結論が出ないという体たらくですが、たまにはこんな感じでも良いかなと。

それでは、また!